旅行ボランティアという考え方
転載させていただきます(抜粋です)
http://www.onsencom.jp/blog/2011/03/31/syukuentai/03/31
震災後、私の増えた仕事のひとつが、被災地・被災地周辺の宿の経営者との電話である。
それは同じ経営者同士、悩みも聞き、考えられるアドバイスもしていった。
涙声の経営者もいた。
マスコミは、当たり前だが、震災による死亡者、被災者の住民の事を取り上げる。
しかし、大地に埋まっている温泉と一心同体の温泉宿は、避難もできず、そこにとどまり、環境を整え、お客を迎えられる体制を整えなければならない。
しかし、客は来ない・・・。もう廃業するしかないのか・・・。
そして私はtwitterで「4月になったら被災地の温泉宿に行こう」と呼びかけた。
東北自動車道も復旧し、ガソリンスタンドも、いつでも給油できるようになった。
多くのフォロワーから賛同を得た。
しかし、「こんな時に行きたくない。旅館というのは寛ぐために行くもの。」という意見ももらった。
それも分かる。お金を使って旅行に行くということは、そういう事かもしれないから。
しかし、2,3日前に、ある旅行好きの老夫婦から連絡をもらった。
「これから高速道路もつながったし、東北の温泉宿を何軒か行く。こんな時だから、私らだけでも今までお世話になった宿の人たちを応援しないとね。」
彼らは阪神大震災の時に、お店を潰され、その時ボランティアで駆けつけてくれた温泉宿の関係者にどれだけ助けられたか、胸に刻んでいたのだ。
そこで私は「旅行ボランティア」という言葉が浮かんだ。
通常、震災で働くボランティアの方たちは、ひたすら被災者のために働く。
頭が下がる。
でも、そんな体力も時間のない人は、別な形のボランティアができるのではないか。
それは、体力の代わりにお金を使う事。
例えば、被災地近くの営業している温泉宿(被災者の受け入れしていない宿)に、単に泊まりに行くという、ちょっと変わったボランティアなのだ。
さらに、経済復興に寄与し、そして温泉宿を勇気づけする事ができる。
対象エリアとすれば、東北6県と茨城県、そして隣接する新潟県、群馬県、栃木県あたり。
ゴロ合わせで言えば「温泉宿応援し隊」か。
私の大好きな龍馬さんの「海援隊」にちなんで、「宿援隊(しゅくえんたい)」でもいい。
ただ、閑古鳥の鳴く温泉宿に、お客様として宿泊すればいいだけの話。
これが厳密にはボランティアとは言えないかもしれないが、確実に温泉宿を励ますことができる点を考えると、立派に「温泉旅館を支える」ボランティアと言えるような気がする。
方法としては、必ず一般客が利用して構わないか電話で確認する。
そして予約は必ず電話で、「温泉宿を応援してます!」と一言あると、宿側は感激してくれるはず。
福島県・須賀川市にある「おとぎの宿 米屋(よねや)」の女将・有馬みゆきさんは震災後、毎日のように鳴り響く予約キャンセルの電話に悩まされていた。
従業員もこのまま雇用維持する事も難しくなってきた。
当たり前だ。売上げがゼロなのだから。
今年1月に、新たに借金をし、大浴場や、離れの客室の大改装中の折りに、この大震災だったから、いっそう追い打ちをかけられた感じだ。
そんな中、HPに「4月1日から営業開始します」との告知をする。
すると、数日後、一本の電話が鳴った。
それは聞きなれた常連客の声だった。
「どう?大丈夫だった〜?4月○日に行くからね〜。元気出してね〜。」
女将さんは電話口で、思わず泣き崩れたという。
同じく福島県・会津磐梯山のふもと、猪苗代湖近くで、バリアフリーの離れの温泉宿「静楓亭(せいふうてい)」も同じ悩みを抱えていた。
各部屋には男女別大浴場並みの大きな露天風呂が付いている人気の宿だったが、震災後、首都圏からのお客の予約キャンセルが相次いだ。
売上げゼロの日が続いた。
普通なら、ここで終わってしまうところ、御年80歳を超える荒井社長は、元気にこう話してくれた。
「地元の常連のお客さんが来てくれて何とかやっているよ。」
つまり、温泉宿にとって、義援金をもらうよりも、お客さんが来てくれるほうが、何倍も嬉しいのだ。
義援金は一時なもの。金融機関側から見ても、こんな時にでもお客が来るという事は評価にもつながる。それによって追加融資も受けられるかもしれない。
そんな事よりも、宿側にとっては、この状況の中で、遠いところまで泊まりに来てくれたという「気持ち」が何よりも嬉しいはず。
いま、東日本だけでなく、日本国中が自粛ムードに包まれている。
でも、自粛ばっかりでは、前に進めないこともご理解いただきたい。
不謹慎という言葉も、最近よく耳にする。
これも贅沢を慎めとのメッセージなのだろうが、謹んでばかりいては、経済も復興しない。
今回の震災によって、直接的な損害(建物の破損)がなくても、相次ぐ予約キャンセルによって、お客が激減している宿は、青森県や秋田県、山形県などの日本海側の東北地方だけでなく、東北地方に隣接している新潟県、群馬県、栃木県など広範囲になっているから深刻だ。
私は常々、日本文化の誇れるものとして「旅館のおもてなし」をあげている。
人の心を尊重し、相手が気持ちよく過ごしていただけるように考え、結果、居心地のいい時間を提供してくれる、日本独自のおもてなし。
基本は一泊二食でお客を迎え入れるスタイルは、お客にとって、細かい心配りを感じさせ、感動も呼び起こす。
日本人の宇宙飛行士が、宇宙から帰ってきた時のインタビュー、海外で活躍するスポーツ選手のインタビュー・・・「日本に帰ったら、何がしたいですか?」の質問に一番多いだろう答えは、「温泉(宿)に行きたいですね〜。」
私はそんな温泉宿を守りたい。
「旅行ボランティア」・・・「温泉宿応援し隊」・・・「宿援隊」・・・少しでも考えてくれたら嬉しい。