東日本大震災から学ぶ次への備え

朝日新聞社会部 on Twitter: "震災をきっかけに学校の危機管理についてまとめられた冊子が反響を呼んでいます。宮城県岩沼市の教育委員会が発行しました。平時にどう備えておくか。震災が起きたときの対応はどうするか。起きた後の物的支援や心のケアは。すべてが被災現場での教員の体験に基づいています。#jishin"01/09

震災をきっかけに学校の危機管理についてまとめられた冊子が反響を呼んでいます。宮城県岩沼市教育委員会が発行しました。平時にどう備えておくか。震災が起きたときの対応はどうするか。起きた後の物的支援や心のケアは。すべてが被災現場での教員の体験に基づいています。


http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/200/103547.html12/09

【前説】暮らしの中のニュース解説です。東日本大震災で被災した宮城県岩沼市の小中学校の先生たちが被災当時の体験をまとめた冊子が学校関係者の間で注目を集めています。体験を今後の教訓として学校の安全策に生かそうと各地から問い合わせが相次いでいると言います。西川解説委員です。


Q.どんな冊子なのですか?


A.この冊子は、震災のあと、余震が続く中で、いつ次の大地震が起きても対応できるようにと宮城県岩沼市教育委員会が作りました。「学校の危機管理」、「東日本大震災から学ぶ次への備え」というタイトルが付けられています。岩沼市は、宮城県の南部の沿岸にあります。東日本大震災では、地震の発生からおよそ1時間後に10メートルほどの津波が押し寄せて、市の面積の半分が水に浸かり、児童・生徒3人を含む149人が死亡、一人が行方不明になっています。8つの小中学校のうち、小学校と中学校1校ずつが津波の被害を受けたほか、津波が到達しなかった学校も、建物に被害が出たり避難してきた人たちで混乱したりしたと言います。記憶が薄れる前にと、各学校の校長や教頭らが参加して6月に編集を始め、2か月ほどでまとめました。

Q.どんな内容ですか?


A.単なる事例集ではないことが特徴です。震災直後から、学校が避難所として使われた時期、さらに授業の再開時期とそれぞれ学校で起きたことを時系列にまとめたうえで、対応でうまくいったこと、できなかったこと、改善すべき点などを分析して具体的に書き込みました。津波に襲われた玉浦小学校の大沼吉朗校長が編集長を務めました。たとえば、発生時、ある小学校では「耐震化は終えていたものの、増築した校舎のつなぎ目の天井が落下した」「およそ1000人の子ども全員の保護者への引き渡しが終わったのは、次の日の朝6時ごろだった」「すぐに停電になってしまったので、メールによる連絡システムで保護者に連絡することができなかった」と書かれています。
また、別の小学校は停電のため「地震発生と同時に校内放送のスイッチを入れ、緊急放送をいれたが『地震発生、児童はすぐに』と言ったところで放送が切れ、放送施設は使用不能になった。」そして、「ハンドマイクを片手に中庭から校舎に向かって、避難指示を与えた。声が聞こえにくい教室には、廊下からハンドマイクで指示を出した」と、切迫した状況の中での対応の様子がつづられています。


Q.改善すべき点も書かれているんですよね?


A.たとえば、校舎のつなぎ目が落下したことを教訓に、耐震基準は満たしていても増築などでつなぎ目のある校舎については耐震診断を再び行っておくことや、校内の防災マップにどの部分がつなぎ目になっているかなども明記することをあげています。このほか、▽保護者向けの緊急メールシステムに使用しているパソコンが津波で使えなくなったが、教頭が携帯電話でも送信できるように登録しておいたおかげで、保護者に一斉メールを送ることができたといった実績や▽停電でテレビが見られなくなり、防災無線も聞き取りにくくなったが、携帯ラジオや、携帯電話のワンセグで情報を得ることができたといった経験から、携帯電話によるバックアップ機能の整備や予備電源の確保の必要性も指摘しています。言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、経験してみなければ、なかなか気づけないことだと思います。

Q.ほかの地域でも学校の防災準備に向けて参考になりそうですね。


A.この冊子に注目したのが、高知県教育委員会です。きっかけは、玉浦小学校の大沼校長が、姉妹都市高知県南国市の校長会に招かれ、冊子をもとに講演を行ったことでした。東西に長い海岸線を持つ高知県は、近い将来発生が予想される東南海、南海地震で、大規模な津波の被害が想定されています。高知県教育委員会は、「実体験に基づいた危機管理マニュアルとして大いに参考になる」として、岩沼市の許可を得て冊子を独自に増刷することを決めました。教育委員会が所管する公立の幼稚園から小中学校、高校、特別支援学校に加え、保育所や国立と私立学校などもあわせて700を超える施設に冊子を配布したんです。


Q.配布を受けた各学校は、これを生かす取り組みを始めているのですか?


A.一部の学校では、冊子で、地震が起きるのは、子どもたちが校内にいる場合とは限らないと指摘されていることを参考に、登下校中に大きな地震があった際、どこに逃げればいいのか通学路ごとに検討を始めているということです。また、学校の避難経路の見直しを進めた結果、津波が発生した場合、すぐに屋上に避難できるように、外階段を付けることを決めた学校もあります。

Q.対応は早いようですね?


A.岩沼市には、高知県のほかにも、県や市の教育委員会に加えて、防災を担当する部局などからも問い合わせが相次いでいます。こうした被災の教訓を共有するような資料作りは、一部、ほかの被災地の学校でも始まっていますが、まだまだ遅れているのが現状です。子どもたちが多くの時間を過ごす学校が子どもたちの命を守る対策として震災で学んだことは少なくありません。そうした教訓の共有化が、新たな震災対策につながります。記憶を薄れさせず、最大限に活用するためにも、岩沼市のような取り組みを集約し、共有化することを国や防災教育を進めるNGOなどが中心となって進めて欲しいと思います。