被災の松 ギターに再生

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東日本大震災津波で倒れた東松島市の松が、3本のアコースティックギターに生まれ変わる。多くのトップアーティストの愛器を作っているヤイリギター(岐阜県可児市)で、1人の職人が「困難は乗り越えられる」と思いを込める。


 材料の松は、東松島市の野蒜(の・びる)海岸にあった。被災した前谷ひろしさん(52)が拾い、一時身を寄せていた知人の作曲家寺本建雄さん(65)=東京都小平市=に相談した。


 「何とか楽器として残せないか」。寺本さんから頼まれたのは、ヤイリの職人小池健司さん(65)。桑田佳祐さん、長渕剛さんら有名歌手のギターを作る。劇団「ふるさときゃらばん」で音楽を手がけた寺本さんとは長い付き合いだ。


 ただ、届いた松は直径約30センチ、長さ約60センチで、樹齢も70〜80年と若いうえ、海水につかっていた。普段扱うのは樹齢200年以上の直径1メートルほどある木材で、10年以上は乾燥させる。


 「この松をただのギターの飾りで済ませるのは、職人の意地が許さなかった」と小池さん。ギターの顔であるボディーの表板(トップ)に使うことに決めた。


 表板は幅24センチ、長さ45センチで、色の淡いこの松に、濃いめの杉を波形に切って張り合わせる。硬さが異なるので亀裂が生じやすいが、厚みを調整し、裏側を補強すれば問題はないという。


 震災の悲惨さを忘れないために、フィンガーボード(指板)のポジションマークには、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」や民家をデザインする。


 乾燥、製材作業が終わり、組み立てに取りかかっている。トップアーティストが愛用するギターのような音を出すのは難しい。ただ、メンテナンスすれば、次代にも引き継げるほど長く使えるという。


 寺本さんが企画して被災者が出演するミュージカル公演も、仙台市で計画されている。寺本さんの演奏で、このギターが「デビュー」する予定だ。


 ヤイリギターでは、約30人の職人がオーダーメードで1日約20本を手作りしている。矢入一男社長(79)は「楽器を作る会社としては、ギターで被災者を励ませるのが一番だ」と話した。