高校教科書検定 震災・原発・防災…どう記述 浮かぶ編集苦悩


http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/552841/03/27

 文部科学省による高校教科書の検定結果が27日、発表された。東日本大震災東京電力福島第1原発事故、防災はどう記載されたのか。被災地への配慮、歴史的事実を伝える責任…。行間からは教科書編集者の苦悩も浮かんだ。



 ■震災−扱い苦慮


 53冊で記載があった大震災だが、申請締め切りが震災の約2カ月後と期間が短く年表などのみの記載が多い。ある教科書会社は「復興の道筋も分からない状況で、どう扱うべきか悩んだ」と振り返る。「被災地の生徒を考慮すると、津波の写真を載せるわけにはいかない」とあえて掲載を見送った会社もあった。


 こうした中、東京書籍の科学と人間生活では5ページにわたり今回の震災を記載、津波の写真も3枚使用した。同社は「写真の使用や記述内容で大きな議論となった。伝えなければ、との思いと被災地の心情でせめぎ合いがあった」と語る。だが「今までにない自然災害であり、感情的や偏った価値観にならないよう配慮し掲載を決めた」という。


 この教科書では「災害が発生したら、想定をもとに適切に行動する」と記載していたが、検定意見が付き「状況を判断しながら、冷静に適切に行動する」と修正。検定の指摘理由は「常に想定に従っていればよいかのように誤解する恐れのある表現」としており、想定を超えた東日本大震災の経験を反映したようだ。

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/552862/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/552786/

開隆堂出版の家庭基礎では仮設住宅の計画例をイラスト付きで紹介した。



原発−賛否併記


 福島第1原発事故も提出期限の制約から数行のみの記載が多い。ある教科書会社は「事故収束の見通しがないなか苦慮した」というが、さまざまな観点から事故に言及した。


 帝国書院現代社会では「爆発した福島第1原発の1号機」の写真とともに「あらためて原発政策のあり方が問われることになった」と記載。その上で、「発電所の建設により雇用が増えて地方自治体の財政も安定する」という原発賛成意見と、「放射性廃棄物は長い期間地表に残る。また実際に事故も起きていて、安全面で大きな不安がある」との反対意見を併記し「あなたの考えをまとめてみよう」と考察させた。


 物理では「原子と原子核」などが必修となったが5冊のうち事故に触れたのは新興出版社啓林館のみ。「数千年を超えるような長期にわたって管理できるかどうかについて疑問を持つ声もある」とした。


 食の安全性については開隆堂出版の家庭基礎がコラムで取り上げ、食品に含まれる放射性セシウムの暫定規制値を紹介した。



 ■防災−高い関心


 今回の検定で反映される新学習指導要領では、地理Aで「防災」の項目が加わった。新要領は東日本大震災とは直接関係ないが、第一学習社は「津波対策の基本は『高台に逃げること』」とし、岩手県釜石市の防災教育を記載。全社が洪水や津波などの危険を予測するハザードマップについて取り上げた。


 防災の記述は各教科横断的に扱っている。保健体育は申請があった3冊全てで防災を記載。大修館書店の教科書では災害対策基本法緊急地震速報を紹介した。住生活の安全性の観点から家庭科でも全16冊が防災を取り上げ、家具の固定方法をイラストで載せた教科書もあった。


 数学Bも15冊中3冊に防災関連の記載があり、新興出版社啓林館は、「最大値の分布と安全性」と題したコラムで、河川の水位に関して堤防を築くときのポイントをグラフ付きで紹介するなど、各教科で関心の高さがうかがえた。