災害情報伝達


http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/1116.html11/16

大規模な災害の際に、多くの人たちにいかに迅速に避難などを呼びかけるか。
東日本大震災の重要な教訓の1つとされている「情報伝達」を巡る新しい試みです。
行政の災害情報を、スマートフォンやカーナビ、屋外のスピーカーなど、さまざまな手段で一斉に伝達しようという新しいシステムが開発され、震災の被災地で実証実験が行われました。
どのようなシステムなのか、経済部の山下和彦記者が報告します。

新システムとは?


新システムは、総務省の委託でNTTデータやNTTドコモ、東北大学などが開発しました。
16日は、宮城県石巻市で実際に情報を配信する実証実験を行って機能を確認しました。

                        • -

このシステムでは、行政の担当者が入力した情報がインターネット上でデータをまとめておく「マルチメディアプラットフォーム」と呼ばれる場所に送られます。
クラウド」とも呼ばれる仕組みです。
そして、情報はそこからさまざまな伝達手段に送られます。

配信先は、「緊急速報メール」「ワンセグ」「フルセグ」「カーナビ」「火災警報器」「屋外のスピーカー」



新システムのメリットは


今回の新システムの最大の特長は、「1回の入力作業で情報を多様な伝達手段に一斉に配信できる」という点です。
通常は、緊急速報メール、防災無線向けの音声など、複数の伝達手段ごとにそれぞれ情報を入力する必要がありますが、この新システムでは1回入力すれば自動的にさまざまな手段で情報を送れます。

                        • -

これによって災害が起きれば、直後からさまざまな業務に追われる行政担当者の負担を軽くすることができます。
また、ノートパソコンなどを使っても入力することが可能で、万一、庁舎が被災しても機動的に情報を発信することができます。

16日の実証実験では


16日の実証実験は「宮城県沿岸に大津波警報が出された」という想定で行われました。
システムに情報を入力すると、屋外の公園ではスマートフォンなどが一斉に緊急速報メールを受信しました。
同時にワンセグ放送でも災害情報を流しスマートフォンで見ることができました。
さらに、カーナビでも情報を受信し、スピーカーからは避難を呼びかける音声が自動的に流れました。
石巻市では、去年3月11日の東日本大震災の際に、防災行政無線で津波からの避難の呼びかけはできましたが、登録制のメールを使った配信は停電のためできませんでした。
その後、津波によって通信インフラや防災無線の機器がことごとく被災して情報伝達手段を一気に失う事態に陥りました。
このため、今回の実証実験に協力し、新たな情報伝達システムの構築に取り組んでいるのです。

肝心なのは“複線化”


石巻市は今回のシステム以外にも、すでに独自のシステムを整備し始めています。 市内200か所に「無線LAN」のスポットを設置し、災害時にはスマートフォンやパソコンで情報を入手できる環境を来年春までに作ろうとしています。
また、「Jアラート(全国瞬時警報システム)」で国から送られてきた緊急情報を、自動的に携帯電話にメールで転送する仕組みの構築や、「Twitter」による情報発信も検討しています。
「災害時にはどの手段が使えるか分からないので、複数の情報伝達手段を整備しておくことが肝心だ」。
石巻市の防災担当者はこう語ります。
複数の手段を確保しておくことで、迅速に、広く、確実に、災害情報を伝えようというわけです。
ちなみに、同じ宮城県内の気仙沼市では、去年の震災発生直後、携帯電話向けの「緊急速報メール」を送信することができませんでした。
庁舎が停電して入力端末が使えなかったのです。
代わりに防災担当者が活用したのが、「Twitter」でした。
パソコンで庁舎外から入力して避難を呼びかける情報を発信しました。
あらかじめ複数の手段を用意したことが、役立ったのです。


東日本大震災で得られた「情報伝達手段の“複線化”」という教訓。
今回の新システムは、ほかの地域でも実証実験が行われる予定です。
また、すでに全国各地ではさまざまな情報手段を使って実際に避難してみる訓練も実施されています。
行政サイドだけでなく、情報を受けとる側の私たちも、どの機器で、どのように情報が得られるか、実際に操作を試してみることが重要になるかも知れません。