No flower without rain



AKB48を離れるということ。ドキュメンタリー「少女たちは涙の後に何を見る?」 - ライブドアニュース 02/18

映画「DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain 少女たちは涙の後に何を見る?」 パンフレットの表紙を飾るのは、涙を流すAKB48総監督・高橋みなみ。この映画は、AKB48のMVを多数手がけてきた高橋栄樹が、昨年公開の「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」に続き監督を務めている。作中では、デビュー当時の前田敦子の映像が何度かインサートされるなど、長年AKB48を見つめてきただけに監督のメンバーへの愛情もうかがえる。 余談ながら、本作における評者のベストカットは、HKT48移籍決定直後の指原莉乃が、仕事で一緒になったSKE48中西優香から慰められる場面。指原と中西はかつて、AKB48研究生時代、地方出身者同士、寝食をともにしながら切磋琢磨した仲。そのことを知っていると、よけいにくだんのカットにはグッと来る。

余談・・・イイ




先週木曜(2月14日)に秋葉原AKB48劇場で行なわれたチームA公演にて、仁藤萌乃がグループからの卒業を発表した。今月1日に封切られた映画「DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain 少女たちは涙の後に何を見る?」(高橋栄樹監督)では、目標とする先輩を訊かれたAKB48の研究生たちのうち高島祐利奈という子が仁藤の名前をあげていて、「渋いなー」と思ったものである。仁藤はシングル曲でセンターに選ばれたりといったことはなかったが、書道の芸能界一を決めるテレビ番組の企画でグランプリを獲得したり、雑誌で消しゴムはんこの連載をしたりと、職人的な活躍が目立った。ある意味、AKB48というアイドルグループの層の厚さを象徴する存在であったといってもいい。そんな彼女が卒業すると知って、“推し”でなくても寂しく思っているファンは少なくないだろう。


AKB48では、姉妹グループも含めここのところメンバーの卒業発表があいついでいる。前出の映画「DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain」でも、板野友美が2013年中の卒業を発表した。そもそもこの映画自体、「AKB48をやめる」ということが一つのテーマとなっている。その中心はもちろん、昨年8月の東京ドームコンサート公演後に卒業した前田敦子なのだけれども、それだけでなく、さまざまな理由でAKB48から離れたメンバーたちが登場する。なかには、スキャンダルが原因でAKB48としての活動を“辞退”したメンバーも大きくとりあげられている。


おりしも映画公開の直前には、例のスキャンダル報道と本人の“謝罪動画”から、グループ内の「恋愛禁止」という掟、さらにはグループそのもののあり方をめぐってファンのあいだだけでなく広く議論が起きた。それだけに、AKB48のファンとして、この映画をどう受けとめていいのか、鑑賞後もいまだに整理がつかないというのが正直なところだったりする。場面によっては、映画として公開するにはちょっとメンバーには酷ではないかというところさえある。たとえば、活動辞退を決めた平嶋夏海が、握手会のステージでファンに直接あいさつするシーン。その場に居合わせた指原莉乃が、「見てらんない」と口にしたのもわかる。


その指原もまた、過去のスキャンダル発覚をきっかけに福岡のHKT48へと移籍する。カメラは、深夜のラジオ番組での移籍発表の様子、そして福岡に向かう指原を追うとともに(福岡に到着した際のネガティブな発言がまた彼女らしい)、それを迎えるHKTのメンバーたちの声も収めている。移籍してくる側もそれを受け入れる側も当初は不安げであったが、しかし指原は、年少のメンバーばかりのHKTにあって、ときには指導も行なうお姉さん的なポジションを獲得していくことになる。映画でのインタビューで彼女は、「あのままAKBに残っていたら、居づらくなってきっとやめていた」と、移籍したことは結果的によかったのだと振り返っている。


AKB48は結成から7年が経ち、メンバーの数も増え、冒頭に書いたようにいまや厚い層を形成している。それゆえに、グループ内での自分のポジションがなかなか定まらないうえ、後輩が次々と入ってきて焦りを抱くメンバーも、とくに中堅どころを中心に少なくない。


昨年、AKB48から何人かのメンバーが、国内外の姉妹グループに移籍、あるいは兼任することが決まった。映画では、彼女たちが当初は決定に戸惑いつつも、やがて心機一転のチャンスととらえ直し新天地に向かうさまも記録されている。なかでも印象深いのは高城亜樹だ。昨年6月の「選抜総選挙」で17位と、シングル曲を歌う選抜メンバーから漏れてしまった高城は、順位発表後、会場で泣き崩れる。その姿からは、「総選挙」というシステムの厳しさ、残酷さが伝わってくる。だが数カ月後、インドネシアジャカルタJKT48への移籍の決まった彼女の顔は一転して、晴れ晴れとしていた。


総選挙での涙から、JKT移籍までを追った高城のドキュメントは、まさに「少女たちは涙の後に何を見る?」という映画のサブタイトルそのものだ。同様に、先述したとおりAKBの活動を辞退した平嶋夏海についても、その「涙の後」が本人の口から語られている。久々に秋葉原の街を歩きながら、AKBをやめてから始めたことなどについて話す彼女は、その顔も口ぶりも明るい。


AKB48のドキュメンタリーは、一昨年と昨年にも公開されてきたが、今回の新作は、現役メンバーのみならず、グループをやめたメンバーたちも登場するという点で前2作とは一線を画している。両者の言葉をとりあげることによって、AKB48とは何か、ひいてはアイドルとは何かを考えさせるという寸法だ。これはアイドル映画としては、かなり踏みこんだ内容といえるだろう。そのなかでは、現役メンバーたちから例の掟「恋愛禁止」についても語られている。そこでの篠田麻里子松井珠理奈の発言には、やや違和感を抱く部分も正直なかったわけではないが、アイドルとしての覚悟はしっかりと感じられた。


さて、今回の映画の最大のハイライトである、前田敦子の卒業までのドキュメントを見ていて、ぼくはふと、目下第2シリーズが放送中のテレビアニメ「AKB0048」を思い出した。アニメでは、未来のアイドルグループAKB0048で、センターを務めながら突如として行方不明となってしまった「13代目前田敦子」が、ことあるごとに回想され、迷える現役メンバーたちを導く役割を担っている。これと同じように映画でも、卒業後の前田の不在が、かえって彼女の存在感を強く抱かせるのだ。


AKB48劇場での卒業公演を前に、秋葉原のあちこちに前田敦子のポスターなどが貼られ、街は彼女一色に染まった。カメラは公演が行なわれた夜、劇場のまわりを大勢の人々が取り巻く様子だけでなく、その喧噪が去った真夜中、ビルに掲示されていた前田のポスターが静かに剥がされてゆく作業の様子まで収めている。その映像はいかにも寂しく、そして今後ここまで街中を巻きこんで熱狂を生み出すメンバーが現れるだろうか、と思わせるに十分だ。


今後、AKB48がどんなふうになっていくのか、映画では次代のホープとして島崎遥香松井珠理奈らにスポットを当てたり、研究生たちの声をとりあげることによってほのめかされる。だが、当然ながらはっきりしたことは誰にもわからない。かつて「ポスト前田敦子」の呼び声も高かったものの、けっきょく学業優先のためグループをやめた元NMB48(大阪の姉妹グループ)の城恵理子へのインタビューを見ると、やはりセンター候補へのプレッシャーはそうとうなものらしい。


姉妹グループまで含めると、前例のないほど巨大なアイドルグループとなったAKB48。そんなグループの現在に肉迫した今回のドキュメンタリー映画は、将来への希望と不安、人気にともなう恍惚と残酷さ、さらにはアイドルを続けることの幸せと、やめたことでの幸せと、さまざまなことを見せつけ、考えさせる。アイドル映画としては問題作ともいえる本作を、ファンだけでなく、より多くの人に観てもらいたい。(近藤正高