震災で地下鉄停電 全国で対策も


http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2013_0411.html 04/11

東日本大震災で、仙台市の地下鉄では人的な被害は出ませんでしたが、長時間の「停電」が発生し、列車を動かせない事態が起きていました。
全国の地下鉄の多くが、地震で停電になった場合の抜本的な対策はまだ十分にできておらず、今後の防災の課題になりそうです。
仙台放送局の山田沙耶花記者の報告です。

あの日起きていた「停電」


震災が発生した、おととし3月11日、仙台市地下鉄では、10本の列車が走行中でしたが、緊急地震速報を受けて緊急停止し、このうち2本は駅と駅の間のトンネルで停止しました。


多くの地下鉄では、こうした場合、安全を確認したうえで列車を次の駅まで速度を落として走らせ、乗客を降ろすことになっています。
ところが、仙台市地下鉄では、東北電力の4つの変電所からの送電が地震ですべてストップする事態となり、列車を動かせなくなってしまったということです。


仙台市地下鉄は、長時間の車内での待機で大きな混乱が起きるおそれもあるとして、最終的には乗客を降ろしてトンネル内を歩いてもらうことを決断し、緊急停止から1時間で2本の列車の乗客を駅まで無事に避難させていました。
結局、列車の運転を可能にするだけの電力の確保には、およそ17時間かかったということです。

全国の地下鉄でも対策


全国の地下鉄の事業者は、地震などによって停電した場合に備え、さまざまな取り組みを始めています。

横浜市営地下鉄の場合、津波でトンネルが浸水することが想定されることから、一刻も早い避難が重要だとしていて、仙台市地下鉄から資料の提供を受けて対策を進めています。
地下鉄の線路に平らなところが少なく、ブレーキを緩めるだけで列車が自然に動く場所もあることから、ブレーキを調節しながら傾斜を利用して最寄り駅まで列車を動かす訓練を行っています。
また、必要に応じて足の不自由な人やお年寄りを迅速に移動させるため、線路上を人力で走る組み立て式のトロッコを配備したほか、地下から地上に伸びる換気所に階段を取り付け、利用する準備を進めているということです。


横浜市交通局の渡部誠建築課長は「停電で車両が動かなくなることが一番の課題。今、導入を進めている対策を災害時に生かせるよう、今後訓練を重ねていく」と話しています。

また、東京メトロは、先月発表した中期経営計画に、非常用走行バッテリーで列車の運転を可能にするシステムの研究を行うことを初めて盛り込みました。
今後、実用化に向けての検討を進めるということです。


名古屋市営地下鉄は、停電が起きた場合、乗客を降ろして最寄りの駅まで歩いて避難させることにしています。
こうしたことなどを説明するため、先月、乗客向けに「地下鉄安全ガイドブック」を作成し、すべての駅のスタンドや券売機に置いて無料で配布を始めました。
冊子は20ページで、イラストが大きく描かれていて、駅や列車の中で揺れを感じた場合の対応を示しているほか、トンネル内で電車が動かなくなったときは、乗務員の指示に従い、線路に沿って近くの駅まで避難することや、停電しても非常用の明かりなどがつき、必要な明るさは確保されるので、落ち着いて行動してほしいと呼びかけています。


そして、仙台市地下鉄は、列車の停止以外にも電力供給を巡るトラブルがあったことから対策を進めています。
列車と運行を管理する指令センターとは、通常、無線で連絡を取り合いますが、無線を使うと、車内の非常灯などにも用いられる列車の非常用バッテリーの電力を消耗することから、震災で列車が止まった際には、途中からPHSでの通話に切り替えたということです。
携帯電話などが使えなくなったあともPHSは通じたということで、現在、台数や配備する部署を増やしているということです。
さらに、当時、非常時の駅の照明などに使う非常用発電機の燃料が無くなるおそれが発生したことから、震災前は年2回だった発電機の燃料の補給を年4回に増やしたということです。
この発電機は、トンネルへの地下水の浸水を防ぐためのポンプ所の電力にも使われるもので、安全面でも重要だということです。

抜本的な対策はなく


しかし、多くの地下鉄では、乗客を降ろしてトンネルの中を避難誘導するしか対策がないというのが実情です。
多くが避難誘導の訓練を行ったり、地震対応のマニュアルを見直したりしていますが、まだ停電を想定したシミュレーションさえ行っていないところもあります。
国土交通省によりますと、全国の公営地下鉄など、主要な10の事業者の中には、停電時に列車を動かすことのできる電力設備を持っている事業者は今のところないということで「今後、対応を進めていくことは重要だと認識している。地下鉄の事業者には、大きな災害が起きた場合に備え、さまざまなケースを想定して乗客の避難誘導訓練を行っていってほしい」としています。
東日本大震災では、地下鉄で人的な被害はでなかったものの、今後、巨大地震の可能性があるとされている地域には、地下鉄が縦横に張り巡らされていて、津波で水没する場所もあるとみられています。
しかも、仙台市よりもはるかに深いところを走っているケースや、ラッシュ時の混雑が比べものにならないケースもあり、そういうところでは、即座に避難ができるかが大きな課題になっています。
過去の災害の教訓や新たな取り組みを全国で共有し、できるだけ早く有効な対策を講じておく必要があります。