いじめをノックアウト 第1回「ガマンしちゃだめ!」


ディレクター'sメモ | いじめをノックアウト | NHK for School
ディレクター‘sメモ1 「高橋さんは、ガマンしていた!」

いじめが起きても、みんなで解決できるクラスになろう!を合言葉に始まった番組の1回目は、
「ガマンしちゃダメ!」。
“いじめ”に限ったことではありませんが、ツライ気持ちを素直に表現できれば、もっと楽になるのに、もっと早く事態がいい方向に動いたのに…。私自身の体験をふりかえっても、そんなことが多かったような気がします。


手探りで始めた最初の収録。事前に高橋さんに伝えていたのは、VTRを見ていただくこと、いろいろ質問されること、スタジオは立っても座っても自由に使ってもらっていいこと、8分の番組だけど30分収録することくらいでした。台本がない分、収録時間の目安を決めておかないと、撮る方も撮られる方も集中力が続かないと思ったのです。


収録も半ば、今回のテーマからすれば当然の質問、「ツライときにそれを言葉にしたことはありますか?」を聞いた時のことでした。
高橋さんは、「あります。でも、それを言葉にできたのは、大人になってからだったと思います。」と答え、1秒にも満たない時間でしたが、ある印象深い表情を浮かべました。


何かを悔やむような・・・。
私はその表情を見た時、“高橋さんは、いま大切なメッセージを伝えようとしている”と感じました。


実際そのあと、高橋さんは、なぜ大人になってから言葉にしないといけないと思ったかを、本当に一生懸命に、それはスタッフ全員が動きをとめて聞き入ってしまうほど一生懸命に、語ったのです。
私たちは、その語りを今回の番組の山場にしました。


収録の冒頭、小学生のときにいじめられていたことにふれ、
「あまり感情を表に出せなかったから、あのときの私にはすごくそれがイヤだった」と語っていた高橋さん…。
「教室のみんなには、同じ思いをしてほしくない」
そう伝えているように思えました。


ディレクター‘sメモ2 「番組では伝えきれなかった拓くんのクラスのこと」

“ツライ気持ちを伝える”ってなかなか難しいことだと思いませんか?
勇気もいるし、必ずしもいい結果になるとは限りません。
でも、きちんとした積み重ねやフォローがあるなかで伝えられる気持ちは、何かを変えるきっかけになる。そのことを強く感じた拓くんと元クラスメートへの取材でした。

※“きちんとした積み重ね”や“フォロー”の大切さについては、番組委員の金森俊朗先生が、ご自分の体験に照らし合わせて書いてくださっています。
拓くんも、みんなの前で読んだ作文を、担任の先生と何度も相談しながら、3日かけて書きました。

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VTRを見た高橋みなみさんが“確信”したように、作文をきっかけに拓くんへの“いじめ”は解決へと向かっていきました。その訳も、ほぼ、高橋さんが“みなみの考え”で想像しているとおりです。


みなみの考え | いじめをノックアウト | NHK for School

でも、実はもうひとつ、番組ではご紹介できなかったエピソードがあります。
上にご紹介した拓くんの作文の最後の3行(番組にはない3行です)についてです。


拓くんは作文を読むまで、やめてほしいという気持ちを、“ちょっかいをかける”という形で表現していました。そのことが、特に女子を中心に、いやがられていたようです。
女子からすれば、なぜいつもちょっかいをかけてくるのかわからない。そのわからなさが拓くんを遠ざけたい気持ちにつながっていたのではないでしょうか。


作文を聞いてクラスメートの態度が変わりました。
作文を読んでわかってもらえたことで、拓くんもちょっかいをかける必要がなくなりました。
そんな“相乗効果”が、解決につながったのだと思います。


そして、長くなって申し訳ありませんが、もうひとつ、ぜひお伝えしたい拓くんのクラスの変化があります。


「顔がすごくすがすがしくて、さわやかに席に戻っていった」
作文を読み終えた拓くんを、そんなふうに見ていたクラスメートがいました。そのクラスメートも、そのころ学校生活が楽しく思えていなかったのですが、その気持ちを、拓くんに刺激を受けて、同じように作文に書いて、みんなの前で読んだのです。


ほかにも何人かのクラスメートが、その後、自分の思いを作文に書いて、みんなの前で読んだと言います。
ひとりの“勇気”は、また別の人の“勇気”につながり、その輪はどんどん広がっていくんだなと思いました。