汚染水 福島第一原発で何が



http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2013_0809_02.html 08/09

東京電力福島第一原子力発電所では、放射性物質に汚染された地下水が海に流出していることが明らかになり、問題は深刻さを増しています。
国はこの問題の抜本的な解決を目指し具体的な対策の検討に乗り出しました。
事故から2年5か月になる今になって、なぜ、このような動きが出ているのか、科学文化部の沓掛慎也記者が解説します。

国が抜本的対策を検討
福島第一原発では、事故で放出された放射性物質が建物や地表に付着したり地下の水に混じったりと、さまざまな形で存在しています。
そこに、原発の山側から1日およそ1000トンという大量の地下水が流れ込んでいて、汚染水を増やし、その一部が海に流出しているのです。

この汚染水の問題を検討する国の有識者会議が8日、開かれました。
環境や地下水の専門家、それに東京電力の担当者などがメンバーです。
会議で茂木経済産業大臣は、抜本的な対策を講じるよう指示しました。
そして、▽汚染水を減らすため、原子炉建屋の山側で汚染される前にくみ上げた地下水など、放射性物質の濃度が法令の基準以下の水を海に放出する対策。
▽護岸に新たな壁を設置し汚染水が海へ流出するのを防ぐ対策などを検討し、9月中をめどに取りまとめることになりました。

いま何が起きているのか
事故から2年5か月になる今になって、なぜ、このような動きが出ているのでしょうか。
ここに至る経緯が大きく関わっています。
ことし5月以降、福島第一原発では、海側にある観測用の井戸から高い濃度の放射性物質が検出されました。
その後、原発の港の海水でも放射性物質の濃度が上昇していることが明らかになり、汚染水の海への流出が指摘されました。
しかし、東京電力が汚染水の流出を認めたのは、7月下旬で、観測用の井戸から最初に放射性物質が検出されてからおよそ2か月がたっていました。

その量について、経済産業省は1日当たり300トン。
ドラム缶にすると1500本分に上るという概算の数字を示しました。
ただ、この数字が正確なものかは分かっていません。
また東京電力は、海への流出を止めるため、護岸沿いの地盤を壁のように固める工事を行いました。
しかし、この工事によって、せき止められた地下水の水位が上がり、壁を乗り越えて流れ出しているおそれが出ています。

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このように東京電力の汚染水のリスク管理に甘さがあるうえに、詳しい状況が分かっておらず、対応が後手に回っているため、国は「早急に対策をとる必要がある」と判断したのです。

地下水バイパスも
対策を進めるには、地元の理解が必要です。
しかし、漁業者をはじめ地元には、東京電力に対する根強い不信感があり、課題になっています。
有識者会議で検討している建屋の山側で地下水をくみ上げて海に放出する対策については東京電力がことし5月福島県の漁業者に説明しましたが、「地下水と汚染水の違いについて区別がついていない」などとして同意が得られませんでした。

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「地下水の放出はさらなる風評被害につながる」という懸念も根強く、今後は国が地元に説明することにしています。
安全面での説明や情報公開の姿勢が、一層求められています。

今後の見通しは
すでに原発の建物や地下の設備にたまっている高濃度の汚染水を、いかに海に出さないかも大きな課題です。
東京電力は、建物を囲うように1400メートルにわたって、地下水を凍らせる方法で地中に「氷の壁」を作り、汚染水を閉じ込める計画を進めています。

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しかし、これほど大規模で長期間にわたって凍らせる「氷の壁」は過去に例がなく、実効性は不透明です。
また、地下水の流れや汚染の状況は詳しく分かっていません。
8日の有識者会議でも、地下水の動きを把握できないと、今後も新たな問題が次から次へと出てくるといった指摘が出されました。
この汚染水問題解決への道筋はいまだ不透明な部分が多い状況ですが、今後40年かかるとされる廃炉の作業に影響を及ぼしかねないだけに、リスクを慎重に見極めながら、課題を解決していくことが求められています。