風の電話ボックス


http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20140311-1268694.html 03/11


天国とつながる黒電話 利用者1万人超


電話線がつながっていない黒電話が、遺族と犠牲者の心を通わせている。岩手県大槌町在住の佐々木格(いたる)さん(69)は震災後、自宅敷地内にあり、会えない相手に思いを伝える「風の電話ボックス」を被災者に“開放”。多くの遺族が受話器を握っている。見学を含めた利用者は1万人を突破。佐々木さんはこの電話の必要性を再認識し、行方不明者の家族を集め、苦しみを分かち合う集会を企画している。


 「ここに来ると、母さんに会える気がするよ。母さん、どこにいるの? 見つけてあげられなくてごめんね」。電話ボックス内のノートには、訪れた人の思いが書き残されている。


 ガーデンデザイナーの佐々木さんは99年に岩手県内で勤めていた会社を辞め、同町の浪板海岸に近い高台に転居。趣味のガーデニングに専念した。


 震災前にいとこを亡くし、悲しむ家族を癒やすため、10年に譲り受けた電話ボックスを敷地内に設置。震災後は犠牲者の数があまりにも多いことから、被災者の訪問も受け入れた。11年5月の新聞報道以来、訪問者は途絶えず、3年で1万人を突破したという。


 佐々木さんは「家族や知人を亡くした被災者は、2〜3割ぐらい。後はボランティアや観光客とか、被災地の外から来た人たち。被災していない人も、家族の大切さを感じたり、何が大事かを考えたりする。その効果が大きかった」と説明した。


 昨年10月、4人の訪問者がいたが、佐々木さんと会わずに帰った。電話ボックス内のノートには「(Kさんの名前)、早く家に帰ろう 父母、祖父母より」と書かれていた。


 「これを見た時、泣いてしまった。4人と会いたかった。Kさんは行方不明者だと思うので、名前を頼りに家族を捜した。報道機関を通じて、今年2月に分かったんです」と佐々木さん。Kさんは岩手県沿岸で津波にのまれ、今も行方不明。両親と祖父母は震災後、毎月沿岸を歩き、手掛かりを捜しているという。


 佐々木さんはこれを機に、「風の電話」の必要性を再認識した。「震災による行方不明者は、大槌町内でもまだ400人以上いる。行方不明者の家族を集め、同じ苦しみを分かち合う集会をしたい」。自宅の敷地内に設置した「森の図書館」に家族を呼び、暖炉で一緒にピザを焼くなどの交流を企画中。電話利用者の心のケアに活動を広げる。【柴田寛人】

 ◆佐々木格(ささき・いたる)1945年(昭20)2月15日、岩手県釜石市生まれ。62年に新日鉄釜石入社。製鋼所の技術職を務める。99年に退社し、大槌町内で庭園「ベルガーディア鯨山」をオープン。「風の電話ボックス」内では「静かに目を閉じ、耳をすませてください。風の音が聞こえたら(中略)あなたの思いを伝えてください。思いはきっとその人に届くでしょう」と説明文を設置。「見えないものを心で感じてほしい」と訴える。